電子帳簿保存法とは、国税に関する帳簿や書類(国税関連帳簿書類)を電磁的記録(電子データ)等により、保存する時の方法について定めた法律です。2021年度の税制改正により電子帳簿保存法の大幅な見直しが行われ、2022年1月より電子取引は電子による保存が義務化となりました。これは、事業規模に係わらず企業・個人事業主が対象となります。
電子帳簿法改正の4つのポイント
電子帳簿保存法改正の4つのポイントは以下のとおりです。
(1) 承認制度の廃止
3か月前の事前申請が廃止となり、電子帳簿保存法に対応した機能を備える会計システムやスキャナ等が準備できれば電子保存が可能になります。
(2) タイムスタンプ要件の緩和
スキャニング時の受領者の署名が不要になります。タイムスタンプの付与期間が3日から2か月以内に。また不正防止策として電子データの修正・削除をしたことをログとして残せるシステムであれば、タイムスタンプの付与が不要になります。
(3)検索要件の緩和
検索要件が、「取引年月日・取引金額・取引先」のみとなりました。国税庁などの要求によって、電子データのダウンロードに応じることとする場合は、範囲指定や項目を組み合わせて設定する機能の確保が不要となります。
(4)電子取引の電子データ保存の義務化
これまで電子取引データを書面で保存することが容認されていましたが、2022年1月以降は電子取引データから書面に出力して保存することが禁止され、電子保存が義務化されます。
対象となる帳簿・書類
電子帳簿保存法の電子保存の対象となる帳簿・書類は以下のとおりです。
(1) 自社で作成する国税関連帳簿書類(システムで作成・保存)
仕訳帳/総勘定元帳/出納長/補助簿/損益計算書/貸借対照表/棚卸表/その他必要な書類
(2) 取引先から紙で受け取る書類(スキャナで電子化して保存)
請求書/領収書/契約書/注文書(自社で作成したものの控えを含む)
(3) 自社及び取引先で電子的に授受する書類(電子取引として電子保存)
メール添付/WEBメール送信/インターネットFAX/EDI/電子契約
以上の電子帳簿に関しては、7年間の保存が義務化されております。
電子帳簿の保存方法ですが、基本的な考え方として電子は「電子」で、紙は「紙か電子」で、ということになります。
元々電子データで作成されたものを、紙に印刷して保管することは不可です。この場合、社内管理上で紙に印刷して確認するようなフローがあったとしても、最終的に保管すべき「正」となるものは電子データとなります。
紙で受け取った場合は、紙のまま保存してもいいし、スキャナーでスキャンして電子保存しても良いです。
真実性の確保
電子データは「真実性の確保」が必要となります。つまり、無条件に「受け取ったファイルをそのまま保存しておけばいい」わけではありません。「そのファイルがいつ受け渡しされたものかがわかり、後で変更されていない」ことを担保する必要があります。そのための方法は以下のとおりです。
(1) 送り側もしくは受け取り側でタイムスタンプを付与する。
国税庁によって認められた第三者のタイムスタンプサービスを利用してファイルに証明書的に付与します。
(2) データ訂正削除の防止に関する事務処理規定を整備する。
国税庁ではこの「事務処理規定」のひな型を用意しています。(→ こちらからダウンロードすることができます)
(3) データの訂正削除を行った場合にその記録が残る、または訂正削除ができないシステムを利用する。
以上の3つの方法があります。
(1)に関してもう少し詳しく見ていきます。
まず、タイムスタンプとは何なのか。タイムスタンプに求められる機能は、(a)スタンプの付与する時間にデータが確実に存在すること、(b)スタンプの付与を受けた時間からデータが変更されていないこと、となります。普通にファイルを作成すると、作成日や更新日などの時間が付与されます。これもある意味タイムスタンプのように思えますが、簡単に偽装することができます。電子帳簿保存法で求められるタイムスタンプは、信頼できる第三者機関である時刻認証局が発行を行っている信頼性の高いものとなっています。そのため、改ざんのない、確実に存在した書類であるという証明へと繋がります。
電子証明書を付与する機能は世の中に多くあります。例えば、アドビのAcrobat Pro DCのライセンスを保有している場合、PDFファイルに電子署名を簡単に付与することができます。しかし、電子署名にタイムスタンプを付与する場合には、別途タイムスタンプサービスを提供する会社からタイムスタンプを取得する必要があり、その分費用も発生します。
以下、参考となるタイムスタンプサービスです。
・アマノタイムスタンプサービス
・セイコー Digital Evidence Solution
・FujiFilm PDFタイムスタンプ for DocuWorks
可視性の確保
次に、電子データには「可視性の確保」が求められます。つまり、ちゃんと読める状態になっていて、日付や取引先などで簡単に検索ができることが要求されます。
この可視性を確保するには以下の方法があります。
(1) ファイル名・フォルダ名に「日付」「取引先」「金額」が含まれるように命名規則を定めます。この場合、運用方法に係る規定や手順が明確になっていることが必要です。
(2) 個々のファイルに対尾する日付・取引先・金額などの要素全てを正しく参照できるよう、別途スプレッドシートなどで「索引簿」を作って管理する。こちらの場合も、運用方法に係る規定や手順が明確になっていることが必要です。
(3) 検索機能があるシステムを利用する。こちらは運用が一番簡単ではあるものの、それなりに費用が掛かります。
では、違反をしたらどうなるのでしょうか。(まだ始まっていないため、可能性があるという話になってしまいますが)
・各税法上の保存書類として認められなくなる可能性がある。
・青色申告の承認が取り消しになる可能性がある。
・不正があると判断されて場合は「重加算税」の対象になる可能性がある。
ということが考えられます。企業にとっては大きな信用問題に発展する可能性もあり、注意が必要です。
中小零細企業はどうすべきか
さて以上を踏まえ、中小零細企業ではどのように対応すべきなのでしょうか。
まずは、どの程度の書類があり、現状どの程度の手間がかかっているかを考えてください。現状で非常に作業量が多く、電子帳簿にすることにより作業量の削減が見込まれるのであれば電子帳簿化には大きなメリットがあります。その場合は、システムを活用することにより更に作業時間の削減が見込まれるので、システムの活用もご検討して頂くことをお勧めいたします。
ちなみに、電子帳簿保存法に対応するサービスですが、大きく分けると2つに分けられます。
1)請求書や経費などをサービスを提供しているもの(MFクラウド、Sansan Bill OneやRicoh Cloud OCR for 請求書など)
2)文書管理をサービスとして提供しているもの(ScanSaveやDataDeliveryなど)
それぞれメリットとデメリットがあります。1)は比較的コストが安いのですが、請求書などに限って提供されるサービスで、全ての電子帳簿に対応していない。2)は全ての電子帳簿に対応できますが、コストが高くなりがちです。
例えば、請求書が圧倒的に多くて、それ以外の書類が少ないのであれば、請求書のサービスを利用して、請求書のみシステム化して、それ以外はファイル管理というのもアリだと思います。恐らく中小零細企業の場合はそういった方法が良いのではと思います。
書類がそれほど多くないのであれば、PDF等で共有サーバに保管し、索引簿で検索できるようにする方法でも十分かと思います。
どういった方法にするにせよ、中小零細企業の場合、全てをシステム化して運用管理することは難しいかもしれないです。全ての電子データに証明書・タイムスタンプが付与されて、検索もできるようなシステムを導入する場合を除いて、規定や手順の作成が求められております。ですので、少なくとも規定や手順を前もって策定しておいた方が良いと思います。